読みたい本が多すぎる

読みたい本が多すぎる。されど人生は短い。

『チュベローズで待ってる AGE22 / AGE32』加藤シゲアキ 3冊 / 14日目

加藤シゲアキ『チュベローズで待ってる』を読む。新潮文庫(2022.6)の100冊。『オルタネート』【過去記事】が良かったので、もう一作読んでみようと手に取る。

 

読みやすいし(何しろ子どもと遊びながらでも読めた)、疾走感もあって一気に読めた。だからおもしろかったんだろうとおもう。が、どうも引っ掛かりに欠けるとゆうか、そこもうちょっと書いてよ、の連続で物足りなさが募る。前篇は、ホストと就活を軸にすすむが、お仕事小説としても、青春小説としても、如何にも中途半端だ。

どうもこの作家は、作品毎に自ら課題を設定して書いているようにおもえる。それをひとつひとつクリアしていく、ゲーム感覚のような印象を受けるのだ。そういう創作態度を、僕は感心しないのだけれど。少なくとも前篇を読むだけでは、何が書きたいのか、僕には読み取ることができなかった。

 

ところが後篇に入ると、そんな否定的な評価に若干の修正を迫られることとなった。前篇で撒いた種が、見事に花を咲かせ実が成るのだ。上下併せても『オルタネート』と大差ない分量なのだから、分冊にする必要もなかったのでは、と云う気もする。だって、ここでやめてしまう読者も多そうで、何とも勿体ないではないか。

 

前篇から九年が経ち、ゲーム制作会社に入社した主人公は、仕事で成功をおさめている。前篇に引きつづいて、作者の意図や物語の主題を探りながら読んだが、それらの次第に明らかになるさまは痛快でもある。

 

決定論、或いは運命と云ってもいいが、それがこの作家の主題なのかもしれない。過去は変えられないけれど、その価値は変えられるし、あるいは同じことだが、未来もすでに決まっているかもしれないけれど、そこに生きる意味を見出すことはできる。

 

登場人物にとって、作家は人生を如何ようにも決定できるプレイヤー、あるいはときに神のような存在たりえるが、その作家によって提示される人生の価値や意味と云ったものを、どうとらえるかは、僕ら読者に委ねられている。そのあたりにこの作家が小説を書く動機が潜んでいるのかもしれない。いずれにせよ、生きることを肯定しようとするポジティヴな態度に好感を持った。

 

新潮文庫の100冊」には、2022年の目玉として初登場し(と云うか、それに合わせて刊行されたのであろう)、今年2023年も引きつづきラインナップされている。本作の初出は2016年「週刊SPA!」の連載で、著者29歳の作品である。主人公が前篇22歳、後篇32歳だから、著者の年齢はちょうどその間、と云うことになる。単行本(2017.12 / 扶桑社)が出たのち、文庫化にあたり大幅な改稿がなされた、と著者あとがきにはある。好みの向きは読み比べてみるのもまた一興かもしれない。新作の『オルタネート』のほうがより巧くなってる、と云うのを確認できたのはよかった。だからこそなのだが、こっちは今年の「新潮文庫の100冊」に入れなくてもよかったのでは。いずれにせよ、著者の次作も愉しみである。と、おもっていた矢先に、新作の発表が告知される。こんどは戦争がテーマの書き下ろし大作、だそうだ。さてどうなるかな、僕は読むのかな。

 

yom46yom.hatenablog.com